里程標

これから始まる高鳴りも
最高な瞬間も
刻まれた情景も
かなわなかった悔しさも

失った悲しみも
いつか時に呑まれ
過去に変わる
儚き記憶として

刹那を残しておきたい
いつでも戻れるように
どんなシーンも
想い出になるから

刹那を永遠にしたかった
僕はカメラを構えた
水のように流れる時を
一滴も零さないように

ありがとう
ありがとう
この想い出があるから
僕はこれからも生きていける
これは僕の里程標

終わると知って
留まれない事を嘆いた
無駄な日々はいらないから
大切な日々は永遠であれと
だけどある時気がついた

何気ない談笑
透き通る青空
全てが大切な日々であると
選ぶことができなかった
尊さも儚さも平等
全ては順番に終わっていく

だから残そうと思った
一眼を構えて
いまを切り取ろうと
無我夢中に
ファインダーを覗いて

ありがとう
ありがとう
この一枚があるから
僕は今日を愛していける
これは僕の里程標

今ここにいること
今心が震えていること
今孤独ではないこと
今幸せであること
二度と忘れることのないように

無機質な目は
全てを平等に
その温かさと
その刹那を残す
いつでもそこに戻れるように

ありがとう
ありがとう
この証があるから
僕はどこまでも歩いていける
これは僕の里程標

遥か遠し
尊き刹那
確かに僕らが
そこに在った証
里程標

***

サンシェード越しに見える青空を見て、思い出す。

「おじいちゃん、今日は空が晴れて綺麗だね。」

病室のベッドで横になる祖父に、母が声をかける。

それはまるで、空港の出発ロビーでの別れ際に、

寂しさを紛らわせるために話した、他愛のない会話のように思えた。

その数日後、祖父は空へと旅立っていった。

サンシェード越しの青空を見るたびに思う。

何かが始まる時も。何かが終わる時も。

きっとそこには、青空が広がっている。

魑魅魍魎

不確かだけど、確かなもの。

人ならざる者たち。

もしきみたちと ぼくらが、

ともに暮らせる世界だったならば、

何か違ってていただろうか。

不確かだけど、確かなもの。

人ならざる者たち。

きみたちは皆、確たるものを持っていて。

ぼくらはあまりにも、不確かすぎて。

明日も、

ぼくらの立つ場所も、

あまりに不確かすぎて。

あまりにも不安で。

不確かだけど、確かなもの。

人ならざる者たち。

どうしようもなくなって、

きみたちに尋ねた。

ぼくらの確たる形は、

どこにある?

ぼくらの不安は、

いつ終わる?

この声は、

届いたか?

その答えは、

聞こえぬまま。

不確かだけど、確かなもの。

人ならざる者たち。

ぼくらは答える。

不確かだから、意味がある。

不確かだから、人間なのだ。

この声は、

届いたか?

その答えは、

聞こえぬまま。

不確かだけど、確かなもの。

人ならざる者たち。

暗闇の先が見えずとも、

確たる形はわからずとも、

怖がらなくてもいい。

きみたちもぼくらも、

不確かだけど、

ここにいる。

だから大丈夫。

不確かだけど、確かなものたち。

姿は見えなくても、

声は届かなくても、

確かにいる。

ぼくらもきみたちも、

ここにいる。

相棒の傍で

静かな砂浜の端、
木造の廃屋をみつけた。

最早人の活気が失われたその廃屋のデッキで、
長い間使われていなかっただろうコンロに火を灯す。

僕はその火を見つめながら、
相棒の滑らかで硬い身体により掛かる。

見上げれば満点の星空。
かつての光を失ったこの場所では、星空がひどく綺麗に見えた。

僕はふと思う。
もし僕がここに一人だけでいたのなら、どうなっていたのだろうかと。

不安と、孤独感で、きっと発狂していたに違いない。

一晩中泣き叫び、誰かを探し続け走り回り、でもついにその”誰か”を見つけることはないだろう。

いまこうして、僕のとなりにいる存在があるからこそ、僕はこうして穏やかな気分でいられる。

この星空を綺麗だと感じ、安心感と微かな楽しさを、感じることができている。

ふと考える。

僕は明日も、いつものように相棒のそばで目をさますことができるだろうか?

もし明日目をさまして、相棒が居なくなっていたらどうしよう。

もし目を覚ました時、この場所ではなく、昔のように白い壁に囲まれたベッドの上で目を覚ましたら。

僕は目の前にある鱗の境目を、そっと指で撫でる。

物憂げな僕の様子に気づいたのか、相棒は翼でそっと僕を覆ってくれた。

…きっと、大丈夫だ。

明日もきっと、この大好きな相棒のそばで目をさますことだろう。

そして、どこまでも続くこの世界の空を、一緒にどこまでも旅をするのだ。

さて、

明日は何処へいこうか


N次元向こうの物語 – Pixiv